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THINK1

建築家・塚本由晴さんと
「これからの住み方と働き方」を考える。

塚本由晴(左)
つかもと・よしはる/1965年生まれ。建築家。1992年、貝島桃代と〈アトリエ・ワン〉を設立。2000年東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学)。東京工業大学大学院教授。ハーバードGSD、UCLA、コロンビアGSAP、コーネル大、ライス大、デンマーク王立芸術アカデミー、ETHZなどで客員教授を歴任。
速水健朗(右)
はやみず・けんろう/1973年生まれ。ジャーナリスト。食や政治、都市、ジャニーズなど複数のジャンルを横断し、ラジオやテレビにも出演。〈団地団〉としても活動中。近著『東京どこに住む 住所格差と人生格差』(朝日新書)、『東京β』(筑摩書房)など。TOKYO FM『TOKYO SLOW NEWS』パーソナリティも務める。

「郊外に住み、郊外で働く」可能性。

――建築家の塚本由晴さんに聞いてみたかったのは、都市の私たちの”住み方””働き方”の関係についてだ。職住近接、長距離通勤、一極集中、どれも人と人の距離と関わっている話である。”ディスタンス”が改めて見直されている今、このシリーズの第1回はこの言葉、そして概念についてとことん考えてみたい。住む場所と働く場所の関係性には、どういった歴史と思考、そして変数(パラメーター)が関わっているのだろうか。
速水健朗さん
速水健朗さん
塚本さんは、ちなみにリモートワークはされていますか?
塚本由晴さん
塚本由晴さん
3月末くらいでしょうか、事務所の若いスタッフから「塚本さんは通わないからいいけど、自分たちは通ってるんです」って言われて、あ、そうかって。
速水健朗さん
自分がもともと職住同一だから意識していなかったと(笑)。
塚本由晴さん
それでようやくリモートを取り入れ、しかも毎朝のミーティングを実施することにしました。図面や模型を前にして話した方が早い、というもどかしさもありつつ、毎日定期的に話すことになったので、スタッフ間のコミュニケーションはむしろ密接になった部分もあります。
速水健朗さん
仕事の中身が大きく変わったりはしましたか?
塚本由晴さん
公共の仕事は、長いスパンで進めるものが多く、実はあまり影響はないんです。じゃあ、個人の住宅はどうか、というと、世の中がどういう状況になっても、ゼロとか極端に減ったりもしないんです。これはリーマンショックの時もそうだったんですが、それぞれの家族ごとのライフタイム、例えば、「子供が生まれるタイミングだから」とか「定年後は郊外でゆったり住みたい」とか個々にプランやスケジュールがあるので、依頼は来ますね。
――人が自分の家を建てるタイミングは、社会の動向のタイミングとはリンクしていない。それはそれ、これはこれなのだ。それでも、住む場所の選び方、どんな家を建てるのかという考え方は、時代とともに変わるはず。例えば、戦後は、郊外にマイホームを建てることが中流家庭の憧れだった時代がある。そして、21世紀に入ってのこの20年は、都心回帰が目立ち、昨今は職住近接が注目されている。
塚本由晴さん
都心から1時間、1.5時間という郊外の庭付き住宅よりも、庭のない小さな家でいいから、仕事場や都心に近い場所がいい、という世代が1990年代末くらいから増えてきた実感があります。
速水健朗さん
新しい考え方を持つクライアントが出てきて、塚本さんの世代の新しい建築家が活躍する余地が出てきたわけですね。そして、「ニューノーマル」とも呼ばれる、今後はまた変わっていくかもしれない。
塚本由晴さん
そうですね。リモートで仕事できるなら都心にこだわらずに郊外でいいんじゃないの? という声が増えていく可能性はあると思います。いわゆる都心の千代田区や中央区の自社ビルがあって、ワンフロアが広大なオフィスで働く、という従来のスタイルとは違うタイプのオフィスが郊外にできていくのではないかと。そもそもイギリスでレッチワースのような田園都市の発想が生まれたのは、ロンドンのような都市で働く人々のための住宅地が近くになかったからなんです。それなら、郊外に仕事する場所を作って、同じ場所に住めばいいじゃないか、と。
速水健朗さん
同じことが、これからの都市や郊外でも求められていくかもしれませんね。
塚本由晴さん
小型のカジュアルなオフィスが郊外に増えていけば、都心までの長距離通勤は必要なくなります。

この日、取材を行った「ハウス&アトリエ・ワン」を自宅兼オフィスとする塚本氏は、まさに究極の「職住近接」の体現者。打ち合わせエリアの一角にある、お気に入りのアートや民芸品が並んだリラックススペースも、"働く"と"暮らす"が地続きであることを感じさせる。

速水健朗さん
とはいえ、日本の郊外の住宅地も、もともとはイギリスの田園都市の影響を受けてできたものですよね? けれどオフィスは少なく、街やコミュニティとしての自立性も少なく、いわゆるベッドタウンが多いですよね。
塚本由晴さん
実は根本の部分で大きな違いがあるんです。エベネザー・ハワードが構想していた田園都市は、”賃貸”というのが設計のベースだったのです。しかし、日本に持ってきた時には、とにかく売り切りたいと思ったのか、分譲住宅になってしまった。
速水健朗さん
エベネザー・ハワードが賃貸でなくてはいけないと考えたのは、なぜでしょうか?
塚本由晴さん
住人からの賃料を貯めて、そのお金を環境整備に再投資するためです。
速水健朗さん
持続的に街が発展し続ける仕組みが組み込まれていたと。でも日本はそうはできなかった。
塚本由晴さん
分譲地としてお金に換えないといけなかったということ。戦前の日本にも手がけた企業にも経済的な余裕がそこまでなかったんでしょう。

”再郊外化”と100年越しの田園都市。

――日本型の郊外住宅は、民間の鉄道会社が主体となり開発され、”郊外のターミナル駅から都心のオフィスへの通勤”とセットとして普及した。それが長距離通勤を生み出し、現在の都市生活の基盤になっている。当たり前のことだが、長時間通勤は労働者の負担となり、ひいてはその家族や地域社会へのコミットも減じさせる。日本の郊外が開発されて約100年。このシステムを見直すべきは、まさに変革期である、2020年の今であろう。
塚本由晴さん
ひとつの家族がひとつの家、土地に住む、という郊外のライフスタイルが始まってほぼ100年になります。そう考えると、1920年代にはできなかった田園都市の理念というものを、巡り巡って2020年代に実現できるかもしれない。ちょうど100年遅れで。
速水健朗さん
東急グループの祖・渋沢栄一が田園都市会社を立ち上げたのが1918年で、ほぼ100年前。以来、都市の郊外への拡張が続いてきましたが。
塚本由晴さん
戦後、行政は空襲で燃えてしまった東京を復興する資金に乏しく、民間が中心になって街の再生をやったわけです。やれるひとからやる式です。政府は住宅金融公庫の仕組みでそれを支援した。そうなると、あんなに空襲で燃やされたのにもかかわらず、大工さんができる木造の、戸建て住宅主体の復興になります。おかげで、若い建築家に仕事のチャンスが増えた。それが結果、いろいろな建築の実験、進歩につながったという側面もあります。
――都心のオフィス、通勤のあり方。そうしたルールが100年前に生まれ、大きなルール変更がないままに21世紀に突入して20年。一度決まったことを変えることはなかなか難しい。その中で、社会は、個人は、どうやって足元を見つめていくか。
塚本由晴さん
そもそも長距離通勤は、家の外にいる時間を増やします。駅前にある居酒屋チェーンが流行るのも、晩酌、つまり家にいる時間が減った結果、まあ逆に原因とも言えます。郊外の住宅開発の先駆となった東急グループも、本来は郊外に副都心的な拠点を作って、そこを発展させるまちづくりをやりたかったはずです。が、渋谷再開発計画はすでに80年代に決まっていたので、働き方が変わろうとしている時に、副都心での業務・商業床のさらなる集積が起こったということなのかもしれません。

〈棚田オフィス〉竣工:2016年/良品計画とアトリエ・ワンによって、新しい住まいを模索する建築の展覧会『HOUSE VISION 2 2016』に出品され、千葉県鴨川に移築されたオフィス建築。1階は農作業の合間に休憩ができる東屋が、2階は棚田を望みながらPC作業ができるオフィスが設けられ、都市と農村を行き来する新しい働き方のシンボルとして世に提示された。

半外部はなぜ生活を充実させるか。

速水健朗さん
家にいる時間が増える。まさに、ステイホーム時代の話でもありますが、塚本さんは、家の中で見直す場所も多いですよね。
塚本由晴さん
家の中で見直すべき場所といえば、まずは敷地の中の建物が建っていないところですね。
速水健朗さん
庭?
塚本由晴さん
はい。バルコニーでもいいですけど、例えばドバイの個人住宅で庭を造るっていったら、それはまあ大変なんですよ。周りが砂漠だから、庭として維持するにはしょっちゅう水やりしなくてはならず、手間とお金がかかる。ところが日本は湿潤気候で、火山国なので地面も柔らかい。もともと山林とか田畑だったところを切り開いて住宅にしているから。ほっとけばなにか生えてくるんです。
速水健朗さん
とりあえず、土にしておけばいい。
塚本由晴さん
家を建てるということは、地面が持っている生態学的なエネルギーを抑圧してしまうことなのですが、庭はそれから解放されている場所ですよね。ほっとけばなにか生えてくるというのは、もう天からのギフトとしか言いようがない。1920年代の戸建て住宅のころは、どこもしっかり庭があったんです。しかし、日本は相続税が高いこともあり、都内の土地はどんどん細分化されてしまうんですよね。
速水健朗さん
かつてあった庭が失われていく流れがあったと。
塚本由晴さん
これからの住居は半外部を増やしていきたいですよね。私の事務所にも屋上やバルコニーがあります。こういうところは、事務所の机でやっているレギュラー的な仕事とは、まったく別の思考や作業をするのに向いています。あと、最近はバルコニーで朝食と昼食を食べているのですが、毎回、気持ちが解放されるんです。

〈ガエ・ハウス〉竣工:2002年/東京都世田谷区奥沢に立つ地下1階、地上2階建ての住宅。3層が中央階段で結ばれた仕切りのない室内やガラス張りのひさしなど、コンパクトながらも開放感あるつくりが特徴。食べる、寝る、働く、などの、暮らす上での必要最小限の機能を空間に持たせ、無駄を省くことで、狭い敷地のなかで設計によって「どこまで広く住めるか」を追求した画期的な建築である。

©ホンマタカシ

速水健朗さん
敷地が狭いとなると、余計なスペースはいらないというクライアントも多そうですが、今こそ見直されるタイミングかも知れませんね。ちなみに、個人の住宅は、発注主の要望を聞きつつ、進められると思うのですが、建築家の方から提案することはどこまで可能なのでしょうか?
塚本由晴さん
建物が20世紀型の暮らしのために設計されたものでしたら、そこに住む人も20世紀型の暮らしを続けていかなくてはならない。そこから抜け出すための提案を打ち合わせでは話すようにしていますし、そのための選択肢を用意しないのは、建築家の罪かなと思ってます。

左:『コモナリティーズ ふるまいの生産』アトリエ・ワン/「コモナリティ=共有性」をテーマに、アトリエ・ワンの思考を紐解く。LIXIL出版/2,700円。 中:『「小さな家」の気づき』塚本由晴/建築における”小ささ”を肯定的に捉えた塚本氏初の単行本。王国社/1,800円。 右:『現代住宅研究』塚本由晴、西沢大良/「ハイブリッド」「配置」などの31のテーマから戦後の住宅建築を読み解く一冊。LIXIL出版/2,200円。

――暮らしの中の距離の話と未来の関係について話を聞いていたら、いつのまにか100年前の話になった。なんとなく自分たちで選び取ってきたはずの生活。だが、それが実はがんじがらめの呪縛の上に築かれていたものだったというのは驚きでもあり納得もさせられた。もう一度、この100年をやり直すべきという結論ではない。がんじがらめの呪縛から解き放たれた先に、自由な暮らしを考えること。もちろん、新しく家を建て直そうという大げさな話でもない。仕事と生活の時間配分、部屋の中でも過ごす場所をもう一度考える。そんなことの中で、自分が選ぶ選択肢が増えていく。そういう話なのだろうと思う。

今回の速水氏のインタビューメモ。その場で出たキーワードのリサーチに使用したのが、世界最軽量約698gの13.3型のモバイルノートPC富士通パソコンFMV「LIFEBOOK UH-X/D2」。圧倒的な軽さ&PCle接続に対応したSSDの搭載で高速起動。持ち運びをためらうことなく、ちょっとした隙間時間に、さっと取り出して快適に作業できる。

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※13.3型ワイド液晶搭載ノートPCとして世界最軽量。2020年9月1日現在、富士通クライアントコンピューティング調べ。

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interview&text/Kenro Hayamizu photo/Shota Matsumoto cooperation/Emi Fukushima

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