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THINK3

脚本家・佐藤大と
「SF、サイバーパンク…”フィクション”と交差する”未来”」を考える。

佐藤大(左)
さとう・だい/1969年生まれ。脚本家。放送構成、作詞分野からキャリアをスタート、ゲーム業界、音楽業界を経て、現在はアニメーションの脚本執筆を中心に活動。代表作にアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『カウボーイビバップ』、ゲーム『バイオハザード リベレーションズ』『エクストルーパーズ』など。
速水健朗(右)
はやみず・けんろう/1973年生まれ。ジャーナリスト。食や政治、都市、ジャニーズなど複数のジャンルを横断し、ラジオやテレビにも出演。〈団地団〉としても活動中。近著『東京どこに住む 住所格差と人生格差』(朝日新書)、『東京β』(筑摩書房)など。TOKYO FM『TOKYO SLOW NEWS』パーソナリティも務める。

SF、ゲームが予期していた、感染症と、移動の制限。

――フィクションに描かれた異常な世界が、現実の世界において展開される。この半年は、世界中でそれが当たり前に起きていたような気がする。感染症の蔓延と世界的な移動の制限。誰も想像だにしなかったわけではなく、フィクションの中ではよく起きていたことなのだ。多くの人がカミュの『ペスト』が発していた警告に気づき、小松左京が『復活の日』で披露していた予測の正確さに驚いた。なぜこれらの作品が、現実を予言できたのか。海外ドラマやSF小説、ゲームなどたくさんの最新のフィクションに詳しい脚本家の佐藤大さんに話を聞きにいった。
速水健朗さん
速水健朗さん
今日は、未来についての話を聞きたいと思います。佐藤大さんが脚本を担当された作品、例えば『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『東のエデン』など、のちの社会現象を予言的に描いたものが多い気がします。そこは未来予測的なものを意識されているんでしょうか?
佐藤大さん
佐藤大さん
そこは狙ってはいないんです。おもしろいでしょって多くの人に見てもらえる話を考えるときに、嘘が多いとお客さんは信じてくれない。例えば、嘘と本当の度合いが、ファンタジーが8:2でも許されるとしたら、SFだと6:4になるということだと思います。でもそのバランスって、反転するかもしれない。リアリティーがある嘘をついたはずが、たまたま現実になるみたいな。

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』
士郎正宗のコミックを原作とした、神山健治監督による人気アニメーションシリーズ。全身義体のサイボーグ・草薙素子率いる公安9課がサイバー犯罪に立ち向かう。本作に登場する「笑い男事件」と呼ばれるサイバーテロは、SNS社会で起こる匿名犯罪を予見していたと言われている。佐藤大も脚本チームの1人として参加。

速水健朗さん
そもそも未来はこうなるはずと考えているわけではないと。
佐藤大さん
むしろ、どう、本当っぽい嘘をつくかってことだと思います。
速水健朗さん
それでも、今フィクションに惹きつけられている現実ってあるじゃないですか。カミュの『ペスト』をなぜみんな読んだのか。病原菌と文明の関わりみたいなことは、ずっとフィクションが題材にしてきたわけで、皆、何かヒントを得たいんだと思います。
佐藤大さん
確かに、コロナ渦でみなさん、何かしらフィクションとして書かれた作品を思い出したりしてましたよね。スティーブン・キングの『ザ・スタンド』も変異型インフルエンザウィルスが人類の脅威になる話ですけど、今の状況で注目されていました。
速水健朗さん
小松左京の『復活の日』の予測精度の高さに驚いたり。
佐藤大さん
今の状況をどこかで見たことのある景色として見ている部分ってありますよね。例えば、ゾンビ映画の光景ですよね。ゾンビって、”感染”の進化を描いてきたジャンルなんです。例えば、ロメロの『ゾンビ』は、ゾンビに噛まれた人がゾンビになっていくという設定ですが、ダニー・ボイルの『28日後…』になると飛沫感染が描かれます。それが『ウォーキング・デッド』になると、噛まれなくとも実はすでに感染が広がってるケースが描かれます。それって空気感染に近いなって。
速水健朗さん
ゾンビ作品の中での手法の進化ってありますね。
佐藤大さん
世界中の誰もが感染していて、まだ発症してないだけかもしれないって、今の状況を示唆していたなあって思いますよね。
速水健朗さん
佐藤さんが脚本を担当した『バイオハザード リベレーションズ』は、バイオテロによるゾンビ渦が描かれていました。しかも、豪華クルーズ船で感染が広がる話を書いています。
佐藤大さん
2012年の作品ですね。ゲームの取材で、客船の船内で感染がどう広がっていくのかってことを取材した経験があるので、あの状況が再現されるという変な気がしました。でもなぜゲームの舞台に豪華客船を選んだのか、実は理由があるんですよ。それはプレイヤーの見える範囲を狭くするためだったんです。

『バイオハザード リベレーションズ』
カプコンが製作するサバイバルホラーシリーズの中の1作。オリジナル版はニンテンドー3DS向けとして発売された。地中海の豪華客船を舞台にバイオ生物兵器を使ったテロ事件が描かれる。

©CAPCOM CO., LTD. 2012 ALL RIGHTS RESERVED.

速水健朗さん
映画の『ゾンビ』がショッピングモールを舞台にした理由と同じですね。
佐藤大さん
そう、ニンテンドー3DSという画面の表示域の小さいゲーム用だったからそうなったというのがあって。ハードの制約で、設定って決まってくる。主人公は何度も同じ場所を行き来するので、一度CGを作って、あとは家具の配置を変えたり。同じ船が実は何隻もあるというトリックを用いたりして工夫しています。

テクノスリラーの一部としてのサイバーパンク。

ーー人類が、科学技術の使い方を間違い、人類的な危機に至る。こうしたエンターテインメントをテクノスリラーと呼ぶ。AIの反乱や環境破壊が引き起こす災害などは、これまでも幾度も描かれたテクノスリラーだ。パンデミックなどの災害などが描かれたものも多い。それらが精度の高い分析によって生まれるかというと、必ずしもそうではない。むしろ現場は、予算やハードウェアの制約との戦いだったりするのだ。サイバーパンクも、テクノスリラーの一分野である。
速水健朗さん
昨今のサイバーパンクの分野の再評価ってありますよね? AIやVRが現実の社会に入ってきていることも関係していたりすることもあります。
佐藤大さん
僕はサイバーパンクって、むしろゾンビに近いジャンルだって思っているんです。
速水健朗さん
それは、どのへんに共通点ってあるんでしょう?
佐藤大さん
どちらも、B級の低予算ムービーのジャンルのひとつです。そもそも簡単に作れるから、すぐブームになるんですよ。そして、すぐに飽きられもするのでブームが冷めてしまうのも早い。
速水健朗さん
このところは再評価期ですよね。『オルタード・カーボン』がNetflixでドラマシリーズ化して、佐藤さんは『オルタード・カーボン: リスリーブド』というアニメーション版のスピンオフの脚本を担当しています。あと同じNetflixで『攻殻機動隊 SAC_2045』も公開されて、こちらも大さんも『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズに続き、参加していますよね。
佐藤大さん
ゲームの『デトロイト ビカム ヒューマン』も話題になりました。サイバーパンクの再評価ももう何周目かのブームですけど、低予算でできるジャンルというのも大きいんですよ。例えば、レプリカントとかサイボーグって言っても実際には、役者を使ってそう言い張れば成立するんだから、巨大怪獣を出すとかロボット同士が戦うとかよりもずっと安上がりです。
速水健朗さん
あ、なるほど。
佐藤大さん
ジャンルそのものが、低予算で盛り上がってきた歴史もありますよね。例えば1982年公開の『ブレードランナー』のロサンゼルスのセットって、もともと『ワン・フロム・ザ・ハート』用に作ったラスベガスのセットの使いまわしだったんです。チープなロサンゼルスが、むしろ未来のロサンゼルスの表現として新しい、と。
速水健朗さん
映画の未来都市像って、ブレードランナー以後変わったと言われますよね。酸性雨が降るアジア風のごちゃごちゃしているのが新鮮だった。

『ブレードランナー』
1982年公開のアメリカ映画。リドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演。フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作としている。シド・ミードがデザインした酸性雨が降りつづける未来都市のイメージが斬新だった。『ブレードランナー ファイナル・カット』/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント/1,429円(DVD)。

TM & ©2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

佐藤大さん
そうなんですけど、単に予算がなかったから出てきたアイデアという面もあります。なのにドゥニ・ヴィルヌーヴが続編(『ブレードランナー2049』)を作るときは、すごい予算であのチープな街を再現した。
速水健朗さん
一周してしまっている。
佐藤大さん
でも”繰り返し”って大事なんですよ。神山(健治)監督をはじめとした『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』を作っていたチームって、『ブレードランナー』を学生時代に見て影響を受けた世代だったし、今のサイバーパンク再評価の作り手側のいる世代は、『マトリックス』のブームを通過してきた世代だと思います。
ーーある作品の影響を受けた世代が、次の時代の新しい作品を生み出すクリエイターになっていく。ゾンビでもサイバーパンクでも、過去作品をいかに参照し、リスペクトするか。そうしたサイクルの中で、フィクションそのものが強度を高めていく。
速水健朗さん
今日のテーマは、フィクションを通して少し先のことを考えたいということなんですけど、改めておすすめの作品を教えてください。
佐藤大さん
これもサイバーパンクですけど、ドラマ『ウエストワールド』ですかね。これもかつて小説家のマイケル・クライトンが監督作品として映像化した作品のリメイクなんですけど。
速水健朗さん
シーズン1だけ観ました。西部劇の時代を再現したテーマパークで働いているアンドロイドたちの話ですよね。彼らは、自意識を持っているんですけど、毎日記憶をリセットされている。
佐藤大さん
それがシーズン2では、日本のサムライが登場する江戸時代のテーマパークが出てくるんです。ウエストワールドから、イーストワールドに変化するんです。でも観てほしいのは、その次のシーズン3です。ようやくテーマパークではない、外の世界が描かれるんですね。その未来では犯罪もスマホのような端末上で気軽に行われていたりする。
速水健朗さん
配車アプリみたいな感じで犯罪もスマホでお気楽みたいな未来なんですね。
佐藤大さん
テーマパークのアンドロイドたちは、狭い世界の中のことしか知らない井の中の蛙のような存在ですよね。ドラマでそれを観る僕らは、かわいそうだなって見てしまう。でも人間も同じようにAIが作っているプラットフォーム上ですべてコントロールされて生きてるんじゃないかって突きつけられる話なんです。
速水健朗さん
なるほど、シーズン3までちゃんと観る必要がありますね。SFにおいては、テクノロジーによる監視社会は定番ですけど、現代では、SNSの普及がその問題に直結するようになっています。
佐藤大さん
でもプラットフォーム企業と、監視社会については、ちょっと違った見方もできるかなとも思っています。例えば『どうぶつの森』のことをみんなゲームだと思っていたけれど、アバターに着せる服を実際のアパレルブランドが売り出している。
速水健朗さん
しかも、マーク ジェイコブスみたいなかなりのハイブランドが。
佐藤大さん
それと、『フォートナイト』は、4月にトラヴィス・スコットが、8月に米津玄師が、それぞれコンサートをやりましたけど、聴いているプレイヤーも自由に動いて、どこから観てもいいという状態で、これまでにないエンターテインメントが生まれた感じがしますよね。誰もまだプラットフォームだなんて思っていないものが、新しいプラットフォームになりつつある。

『フォートナイト』
2017年にスタートした無料のオンラインゲーム。100人のプレイヤーが同時に1つの島の中で戦うバトルロイヤルモードが基本的な土台だが、シーズンによって中世が舞台になったり、ヒーローの世界や海賊の世界になるなど、テーマが変更されていくのが特徴。

©︎REISSUE RECORDS

© 2020, Epic Games, Inc.

速水健朗さん
ゲームの世界で起こっていることが、現実よりも少し先にあるなっていう感覚、わかる気がします。
佐藤大さん
今の世界をプラットフォーム間の争いとして見ることって可能ですけど、その中で、MCUとか、アメコミのヒーローってもはやプラットフォームのようなものになっているなって思うんですよ。
速水健朗さん
映画会社の系列化とか、動画配信サービス間の競争とかそういう話ですか?
佐藤大さん
ちょっと違う話です。例えば、『ウォッチメン』は、もともと東西冷戦を題材にしたアメコミのヒーローものですが、最新の実写化ドラマでは、タルサ暴動という1921年のオクラホマ州で起こった白人至上主義者たちが黒人を襲撃するという実際の事件から始まるんですが、そこで活躍する覆面ヒーローという現代的なテーマに置き換えてやっています。ブラックライブズマターがここまで社会問題化する前の2019年にこれをやっていたんです。

左は1980年代のヒーロー漫画『ウォッチメン』のドラマ版『ウォッチメン 無修正版 ブルーレイ コンプリート・ボックス』。ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント/13,000円(BD)。右/佐藤氏いわく、今のサイバーパンクの潮流を支えるのが中国のSF小説。中でもチェン・チウファンの『荒潮』は、シリコンや精密チップを拾って生計を立てるゴミ溜めのような貧民街が舞台。近未来における、産業廃棄物の利権をめぐる攻防を描く。早川書房/1,800円。

速水健朗さん
なるほど。社会的な重みのあるテーマでも、ヒーロー物が吸収できるような、強度がある器ということですよね。フィクションの世界が掴んだ新しい手法という気がしました。表現の手法は常に進化していると。
佐藤大さん
その一方で、フィクションって、ずっと2周目、3周目をやっているんだと思います。今の世界で起きてることも、すでに2周目、3周目の出来事なのかなとも思ってます。
佐藤大さんのフィクションも世界も「2周目、3周目をやっている」というのは、決して何かをあきらめているわけではない。ものの見方の話である。人が何か大きなものと直面した時に、この大きな変化に適応しないと生き残れないと考える一方で、過去にも同じようなことがあったに違いないとも考えるべきなのだ。この世界的なウィルス渦の中でカミュの『ペスト』を手にとった人たちは、基本的にそういうものの見方をした人たちなのだと思う。
本を読んだり映画を観たりするのは、基本的には娯楽である。受け手にとっては気晴らしであり、送り手にとっては、飯の種。それが繰り返し生産されて消費されていくさまは、まさに「2周目、3周目をやっている」にほかならないが、その中で人の生き方=文明が記録されて、継承されていく。小説も映画=フィクションのひとつひとつは単なる娯楽でも、繰り返しの所業として、社会の強度を高めているという性質がある。だからフィクションは必要なのだ。

今回、速水氏がインタビューのリサーチやメモに使用したのが、13.3型モバイルノートPCの富士通パソコンFMV「LIFEBOOK UHシリーズ」。シリーズ最上位モデルである「LIFEBOOK UH-X/E3」は 約634gの世界最軽量モバイルノートPC。圧倒的な軽さ&PCle接続に対応したSSDの搭載で高速起動。ちょっとした隙間時間や、狭いスペースなど、いつでもどこでもストレスなく作業できる。(記事内での速水氏使用モデルは「LIFEBOOK UH-X/D2」)

富士通パソコンFMV「LIFEBOOK UH-X/E3」
OS:Windows 10 Pro 64ビット版
CPU:インテル® Core™ i7-1165G7
メモリ:8GB
バッテリ稼働時間:約11時間
Office:Office Home & Business 2019(個人向け)
サイズ:W307 × D197 × H15.5(mm)

※13.3型ワイド液晶搭載ノートPCとして世界最軽量。2020年9月1日現在、富士通クライアントコンピューティング調べ。

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interview&text/Kenro Hayamizu photo/Shota Matsumoto edit/Emi Fukushima

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