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富士通

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あったかい心がつまった「らくらく本」ができました。

心温まるエピソードのご紹介

「もしもし、俺やけどね」

『今日は伊吹山が綺麗だよ』。今日も読まれるはずのないメールを打つ。相手は脳梗塞で倒れた父。もしかして、二度と父が読むことはないのかもしれない……そんな不安を抱えながらも、父にとって唯一のメル友である私は、メールを送ることくらいしか今はできない。朝メールを送り、夜お風呂で独り泣く。倒れる5日前に替えたばかりの父のらくらくホンには、私の一方通行なメールがたまっているはず。どんな父でもいい、生きていつか私のメールを「大袈裟やなぁ」と笑ってほしい。そう願いつつ、病院からの70kmを泣きながら帰った日もあった。あれから半年。一時は生死をさまよった父も退院し、少し右足を引きずりながらも憎まれ口までもが復活。そんな父が、あの時のメールを読んだかは未だ知らない。ただ、今は私がメールを送ると、必ず5分後にケータイが鳴る。「もしもし、俺やけどね」。元気になってもメールは面倒な父なのである。

田中 麻子さん 30代