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人工知能の第一人者に聞く! AIが中高年の健康維持のために活躍する近い未来

ますます身近なものになるAIを取り巻く最新事情

2045年にも人間の能力を超えると言われている人工知能(AI)。近い将来、私たちの日常生活はSF映画のようなものになるのでしょうか。

人工知能研究の第一人者の1人として知られる、札幌市立大学理事長・学長の中島秀之先生は「AIの技術はすべての分野に入り込むようになる」と言います。

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現状、AIの分野でも特に進んでいるのは、"ディープラーニング"と呼ばれる技術。日本語では"深層学習"とも訳され、コンピューターに機械学習を行わせることにより、人間の脳神経回路を模したコンピューター自らがデータに含まれる潜在的な特徴を捉え、人間の知能のように、より正確で効率的な判断を実現するものです。特に、画像認識が優れていますが,音声認識と自然言語処理を組み合わせた音声アシスタントや、絵から言葉、言葉から絵に変換する分野も進んでいるとのことです。

昨秋、日本でも次々と発売された、Googleホームや、AmazonのEchoなど、"AIスピーカー"もAIの応用例です。

「研究者の間でこのような会話で家電を制御するシステムの概念そのものは2000年頃にはすでに存在していたものですが、AIの技術がスピーカーに実装されて一般発売されたというのが画期的で、かつAIの技術が一般人の日常生活に入り込んできた初めの一例だと言えます。」(中島先生)

中島先生の研究の専門分野は"交通システム"。公共交通の利用要求に対し、リアルタイムに全自動で配車を行う未来型交通システム「Smart Access Vehicle(略称:SAV)」の社会普及を促進する「未来シェア」というプロジェクトに2016年から取り組んでいるとのことです。

「路線バスとタクシーのいいとこどりをしたようなシステムで、人工知能がリアルタイムに車両の最適なルートや交通手段の組み合わせをシミュレーションして、最適な配車を行います。この仕組みによって、大都市では自家用車が不要になり交通渋滞の解消にもつながり、高齢者が運転しなくてすむようになるなど、高齢化社会における問題の解決にも期待されます」(中島先生)

鏡を見ただけで健康状態がわかる!? 医療、健康分野におけるAIの取り組みと課題

AIの利活用で、最も期待されている領域の1つとして、医療や健康分野も挙げられます。技術の進歩や生活習慣の質の向上により、"人生100年時代"とも言われる昨今。中島先生は、AIが人の健康寿命を左右するようになるだろうと予測します。

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中でも特に期待されるのが、"セルフメディケーション"のジャンル。AIが健康診断の状況に応じて、健康増進や改善のためのアドバイスを行ってくれるなどの活用方法が考えられています。

「先端技術としては、デジカメで人の顔を写すと、皮膚の下の血管が見えるという技術もすでにあるんです。これにより、カメラで写すだけで、脈拍とか血流量を測ることができるんです。こうした技術とディープラーニングを組み合わせることにより、顔の映像だけで血圧までわかるようになるかもしれません」(中島先生)

しかし、機械学習と呼ばれる人工知能の精度を高め、進化させていくにはデータの蓄積が不可欠とのこと。そして、実はそうした技術の進展において大きな課題となるのが、まずは"センシング(検知)"の技術。

「健康とか医療の分野における人工知能の活用においては、わざわざ測るとか装置を装着しなければならないというものはだいたいうまくいきません。先ほどのカメラの技術のように、見ただけでわかるというのが大事なんです。例えば鏡の向こうにカメラがあって、朝顔を見ただけで健康状態がわかるとか。トイレの排水溝にセンサーがあって流しただけで状態をチェックできるとか。ベッドのマットに圧力計を付けておいて無呼吸症候群がわかるという研究もあります。そうした技術は研究レベルでは実はずいぶん昔からあるんです。本人に意識させずに、いかにセンシングを行うかというのがカギですね」(中島先生)

また、データの取得に関してもう1つのハードルとなっているのが人の問題。理化学研究所の「健康脆弱化予知予防コンソーシアム」の会長も務める中島先生ですが、そこで実証実験を行う際にも「元気な人しか来ないんです。AIでアシストしたい人、健康に問題がある人といったターゲットにしたい人というのは全然来ません。生活習慣病についても、そもそも興味がないから生活習慣病になってしまうという話で、必要なデータを集めることが難しいんです。そこがネックですね」と話します。

一方、介護の分野では"AIロボット"に期待が持てるとのこと。将来、さまざまな分野に入り込んでいくとされる人工知能ですが、基本的には人間のやりたくない仕事をAIやロボット、機械が代替するというのが自然、と中島先生は考えています。「特に介護方面では、例えば排泄のケアなど接する人間の感情がわからないほうがいい、機械的にやる作業も多いですから、そこはロボットの出番ですね。一般的にはロボットは感情がわからないからダメだと言われますが、介護に関しては人間がやるよりも機械のほうが適している仕事も多いと思いますね」

AIと人間、得意分野の分業が進み、AIが人間の"相棒"的な存在に

中島先生によると、一般論として、AIは目的でなく、最適な手段を導き出すことが得意とのこと。例えば将棋や碁など「あらかじめゴール="勝ち"がわかっている場合は、AIは強い」と説明します。

反対に、AIにとって難しいのは是非の判断。「いいと思うのは人間の価値観で、AIにそれを教えてあげないといけません。囲碁みたいなものはゲームだから評価ができます。要は勝つか負けるかですから。だから、一晩に何千局とか人間ではとても無理な数をプログラムがランダムに対局して学習させることができるんです。しかし、例えば料理を評価するといったような価値観や感性が必要なものは人間の価値観に基づくものなので、AIにとっては難しいことなんです」(中島先生)

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中島先生が個人的にAIにアシストしてほしいと思っているのは"物忘れ"だそう。

「久しぶりに会った人の名前を忘れてしまったときなどに、画像認識システムを使ってAIが教えてくれたりするとありがたいですよね(苦笑)」(中島先生)

他にも、期待できる分野として、例えば一人暮らしの高齢者の状況を見守り、異変があると離れて暮らす家族に通知を行うといった安全対策的な活用シーンや、コールセンターなどにおいて、人の声のピッチやトーンをAIが認識して反応を予測するシステムなど、「人間では難しいセンシングを行い、AIが判断するといった使い方もアリ」だと言います。

AIの今後の展望においては、AIがどういうかたちでアシストをするか?や、どういう社会にしたいか?というビジョンを持ち、順序立てて考えていくことが大切だと話す中島先生。そこで中島先生が思い描くAIと人とのかかわり方の理想形を訊ねると、次のように答えてくれました。

「人間の側がアクションしていないのにAIが何かをやってくれるというのは正直おせっかいに感じてしまいます。そこで何かのアクションをしたときにAIが適切なことを返してくれるというのが理想ですね。人間というのは、ちゃんと聞いていればコンテキストまで理解して反応するので、例えば同じキーワードが出てきても反応してはいけないときとそうでないときを判断します。機械がそこまで判断できるようになれば本当の意味で有用になると思います」

AIを応用した機器の革新や、ディープラーニングによる精度向上は、今後よりいっそう進んでいくことでしょう。しかし、人間とAIの理想的な関係についてはまだまだ模索が続いているのが現状です。AIをよりよく活用するためには、我々ユーザー自身がAIの得手不得手を把握しておくことが必要だといえそうです。

中島秀之氏略歴
1952年、兵庫県生まれ。情報工学者。
1983年、東京大学大学院情報工学専門博士課程を修了後、当時の人工知能研究で日本の最高峰だった「電総研(通商産業省工業技術院電子技術総合研究所)」に入所。協調アーキテクチャ計画室長、通信知能研究室長、情報科学部長、企画室長などを歴任。2001年に産総研サイバーアシスト研究センター長、2004年に公立はこだて未来大学の学長となり、教育と後輩の育成、情報処理研究の方法論確立と社会応用に力を注ぐ。2016年3月、公立はこだて未来大学学長を退任し、同年6月から同大学の名誉学長となる。2018年3月に東京大学大学院情報理工学系研究科 先端人工知能学教育寄付講座特任教授を退任し、同年4月に札幌市立大学理事長・学長に就任。近著に『人工知能革命の真実 シンギュラリティの世界』(ワック刊・共著)がある。

取材・文/神野恵美
写真/松本順子
編集/毎日が発見ネット編集部

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