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高齢化社会で期待される医療IoTの動向

 IoTは、病院など医療分野においては「IoMT(Internet of Medical Things=医療IoT)と特別な呼び方もされている。医療IoTでは、ワイヤレス通信機能を備えた医療機器を活用し、患者のあらゆる健康データを収集・分析して共有することができるため、患者個人によりパーソナライズされた医療サービスが可能だ。遠隔治療など、医療ケアの効率化につながることも期待されている。高齢者人口の増加に加え、慢性疾患患者に対する医療コストの増大、さらには医療現場での深刻な人手不足といった過剰労働などの問題が医療の現場で叫ばれるなか、そうした日本と同様の問題を抱えるアメリカでは、医療IoT機器を積極的に導入する病院も多く、関連ソリューションを提供するIT企業が続々と医療分野に参入している。そこで、医療IoT先進国であるアメリカの実情を踏まえながら、今後の社会における医療IoTの動向を探ってみたい。

世界の医療IoT市場は2022年に4100億ドルに急伸

 世界の医療 IoT 市場は、2014 年時の 584 億ドルから2022年には4100億ドルへと大幅に拡大する見込みだ(アメリカの市場調査会社・Grand View Research社による調査)。今後需要が高まるのは、体内埋込型の医療機器を中心とする医療機器に加え、関連ソフトウェアやサービス分野。病院で IoT を活用するメリットとしては、医療コストを削減しつつ医療ミスも減らせることが大きい。さらに治療効果や患者の待遇改善(苦痛を伴う治療の削減)などが挙げられる。特にIoT ソリューションの導入により、心臓病や糖尿病などの慢性疾患患者のケアにかかる費用を大幅に削減することが期待されている。看護師の過剰労働がアメリカで深刻化してきたが、遠隔モニタリングやウェアラブル機器により、患者の健康データを自動収集する医療 IoT 機器は、医療スタッフによる業務の効率化に貢献している。
 当初は、医療 IoT デバイス市場全体の6割をウェアラブル機器が占めていたが、埋込センサーなど、患者の健康状態をリアルタイムでモニタリングできる体内埋込医療機器の需要が近年で急速に高まっている。今後は、ハードウェアに加えて医療データや遠隔治療を支援するデバイス管理といったソフトウェア部門が伸びていくと見られる。現状では、医療 IoT ソフトウェアとサービス分野においては、Microsoft 社、Cisco 社、IBM 社といった大手 IT 企業が市場を独占しているが、医療分野でITベンチャーがどこまで食い込めるかは注目に値するところだ。実際に2015年以降、アメリカでは医療分野に参入するベンチャー企業が多く、センサーを用いて、病院における医療サービスの最適化や患者の服薬管理等のソリューションを提供する企業なども登場している。
 オバマ政権時代に医療分野のIT化が推進され、2013年時点でアメリカの病院の電子カルテ導入率は80%を超えた。血圧や心拍数、血糖値などのバイタル数値をモニタリングする機器を患者が装着し、データを共有することで遠隔治療が盛んになったが、その後も医療 IoT のサポートするデバイスの種類は幅広く、超音波や血糖値モニター、心電図などがコネクテッド機器として臨床ケアや長期的看護を必要とする慢性疾患患者に対する遠隔モニタリングに用いられており、医療関係者の業務負担の軽減や医療ケアの改善につながっている。このような医療IoT機器の導入数は、2015年時には全米で9500万台であったが、2020年には6億台を超えると予測されており、急増中だ。
 近年のアメリカで提案されているのが、医療機器・装置などのリスクシェアリングである。ゼネラル・エレクトリック(GE)が着手しているが、IoTセンサーを駆使して、装置の保守管理や効率性のチェックを行う。なぜリスクシェアリングが必要かというと、病院が装置を実際に使い、効果があれば利益を企業側と分けあうが、望む効果が得られなかった場合には、コストを企業側が負担することになっているからだ。これは先駆的な試みと言えるが、皆保険制度の維持が高齢化社会の中で困難になりつつある日本でこそ、メリットがありそうだ。

国内IoT市場は規制変更など政府の後押しで今後に期待

 アメリカ同様に、日本でもIoTの活用で高齢者層や慢性疾患患者の医療をサポートをしようという動きはある。リモート患者モニタリングや、遠隔医療、各種のセンサー技術を用いれば可能になるし、健康寿命が延びて慢性疾患が適切に管理されれば、重症化する患者数は減り、医療コストは軽減される。在宅モニタリングで、転倒するお年寄りの数を減らすだけでも、医療コストの節約につながるはずだ。実際にそのような技術開発は国内でも盛んに進められている。
 ただし、IoT技術の進展に合わせて、医療制度や様々な規制の変更がまずは急務だ。医療制度や規制は、技術の発展にも影響を与える。また、医師が進んでIoT技術を活用することや、医師と患者双方が非対面での診察を嫌がらないように啓蒙していくことも大きな課題とされている。
 政府も腰を上げており、2017年4月に総理大臣官邸で開催された「第7回未来投資会議」において、遠隔治療やAI活用を前提とした新たな医療システムの構築が議論された。同年6月に「未来投資戦略2017」が閣議決定され、医療ICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)を活用したデータプラットフォームの構築など、予防から治療まで⼀貫して個⼈に合致した医療・介護を提供する新たな体制を2020年までに構築するべく、規制変更を含めた取り組みが行われている。
 日本では、2010年頃から遠隔画像診断システムの開発が始まり、2012年にはモバイル読影端末が開発された。2015年にはAIによる読影レポート支援がスタートしている。かつて世界中のCTやMRIの約半数が日本国内にあるとも言われ、放射線機器の導入では世界トップであったにも関わらず、それを活用できる医師が圧倒的に不足していたのだ。そこで遠隔画像診断への取り組みが進められたことが背景にある。
 そんな事実からも、先進的なテクノロジーを有しながらも、それをフル活用できないどこかちぐはぐな印象もあった日本の医療IoTだが、アメリカの事例なども参考にしながら、今後は取り組みが急速に進んでいくことは間違いない。高齢化社会が抱える諸問題を一気に解決することも期待されているだけに、医療IoT市場の活性化が望まれる。アメリカ同様に大手企業のみならず、新進気鋭のITベンチャーの参入にも期待したいところだ。

文/コネクティプス編集部

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