Fujitsu
THINK6

音楽家・江﨑文武さんと
「自らつくり、マルチにはたらく未来」を考える。

江﨑文武(左)
えざき・あやたけ/1992年福岡県生まれ。音楽家。東京藝術大学音楽学部卒業。ソウルバンド・WONKやmillennium paradeのキーボーディストとして活動するほか、楽曲提供や編曲なども行い、音楽家として幅広く活躍。さらに、アーティストコレクティブ「EPISTROPH」の立ち上げや、東京大学大学院での幼児の音表現支援の研究など、経営、教育、デザインなどの分野を横断してマルチな活動を展開している。
カツセマサヒコ(右)
1986年東京都生まれ。小説家、ライター。大学卒業後、2009年より一般企業に勤務。趣味で書いていたブログをきっかけに編集プロダクションに転職し、17年に独立。現在はウェブライター、編集者として活動し、Twitterのフォロワー数は14万人を超える。デビュー小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)は、発売2ヵ月で6万8,000部を突破した。
仕事であれ、慣習であれ、馴れ合いで続けられていたことが断ち切られ、何が本質的に必要なのかが問い直される今、様々な分野のスキルを持ち、柔軟に場をつくりながら新しい価値を生み出す若手クリエイターたちの存在が際立っているように感じる。WONKを中心に音楽・デザイン・教育とマルチな活躍をする江﨑文武さんもその一人。世の中に必要なものづくりの、そして働きかたのヒントを、彼と探ってみたい。

必要に応じて身についた
クリエイティブで多様なスキル。

カツセマサヒコさん
カツセマサヒコさん:
先日のWONKの3DCGライブ、拝見しました。映像表現がSF映画のようで……本当に凄かった。まさに未来のライブですね。
江﨑文武さん
江﨑文武さん:
ありがとうございます! 楽器を演奏する動きのモーションキャプチャーをとるというのは世界的にもすごく珍しいことだったんです。

8月22日に実施されたWONKによる生配信ライブ企画「『EYES』SPECIAL 3DCG LIVE」。Wright Flyer Live Entertainmentの協力のもと3DCG化したメンバーが、架空の映画『EYES』の世界をモチーフにしたバーチャル空間でライブパフォーマンスを繰り広げた。

カツセマサヒコさん
最近、配信ライブを企画するミュージシャンは多いと思うんですけど、あそこまで大掛かりにデジタル面に振り切るのは面白いですよね。
江﨑文武さん
4月にオンラインゲーム「フォートナイト」上で行われたトラヴィス・スコットのバーチャルコンサートにやっぱり周りも衝撃を受けて。配信ライブをやるにしても、これは何かやり方を考えなければなと。
カツセマサヒコさん
今回のライブもそうですけれど、江﨑さんは本当にいろんなことにアンテナを張っていますよね。キーボーディストとしてはもちろん、プロデュースや楽曲提供、音楽レーベルを持って経営も担っていたり、グラフィックデザインもされていたり。どんなきっかけでいろいろなことを同時に並行するようになったんですか?
江﨑文武さん
意識的にというよりは、自然とそうなった、というのが正しいかもしれません。僕らの世代で言うと、中学1年生の頃にYouTubeが登場したんですよ。当時からピアノをやっていてジャズバンドを組んでいたので、演奏動画を撮影しては、編集してYouTubeにアップロードする、というのを気軽にやっていて。
カツセマサヒコさん
すごい、13歳から?
江﨑文武さん
はい。そうすると、サムネイルの画像が必要だから画像編集ソフトのIllustratorやPhotoshopを使ってみよう、とか、撮影のために人を集めないといけないな、など、音楽以外にも必要なことが付随して出てきたんです。
カツセマサヒコさん
なるほど。でも江﨑さんの周りって藝大時代のご友人を含めて、きっと優秀なクリエイターが多いんじゃないかと思うんです。自分でやらずとも、「専任でやってるあいつに頼んだほうが早いよな」ということもある気がしていて。自分でやろうと思う原動力ってどこにあるんですか?
江﨑文武さん
もちろん、任せることも多いんですよ。ただ、音楽のほかになんとなく映像の編集やデザインのスキルを持った状態で大学に入ったら、自分と同じように、極めている部分はありつつも、平たく色々なことができる人が多かったんです。そういう器用な人たちとものづくりをしていくと、お互いに「このへんまでは自分でできるから、できなくなったら頼もうかな」という感じで、ある程度同じ景色を見ながら、最終的にはそれぞれの専門性を軸に精度を高めていくことができるんです。とりあえず自分でやってみるという経験をしたからこそ出来ることだと思いますね。
カツセマサヒコさん
そのほかにも、音楽を切り口にした教育の研究もされていますよね。
江﨑文武さん
学生時代に働いていた会社と一緒に、知育アプリの開発にも携わっています。たまたま近しい先輩から、クリエイティブを軸に据えた教育プログラムをやりたいという話を相談されて、作り手として、どういうプログラムがあったら面白いかを考えたことを機に、教育の方向に目を向けるようになりました。
カツセマサヒコさん
元から興味があったんですか?
江﨑文武さん
なんとなく大事なことだとは思っていたというか。例えば、デザイナーのブルーノ・ムナーリも、キャリアの到達点は教育方向に自分のクリエーションをアウトプットしていくことだったんですよね。子どもに木の描き方を教える絵本を作っていて。だから、ぼんやりと、やがて教育方向に向かうクリエイターってかっこいいなという気持ちはありました。まさかこんなに早い段階で機会に恵まれるとは思っていなかったんですが。
カツセマサヒコさん
そうですよね。20代ですからね。
江﨑文武さん
まだまだ自分が学ぶ側なのに(笑)。
カツセマサヒコさん
これだけマルチに活躍されていますが、特に先輩ミュージシャンだと、「俺は音楽だけに集中して、それ以外はやらない」と思っている職人気質な人も多いんじゃないかとも思うんです。そこに憧れはないんですか?
江﨑文武さん
あまりないかもしれないですね。むしろ色々なスキルがあることはプラスに働くことのほうが多い気がしていて。例えば音楽に付随してミュージックビデオを作る時、自分で少しでも映像を触ったことがあると、映像制作に携わっている人とも深いところまで話ができるような気がする。少し入り口を知っているからこそ、話の精度が高くなるんだろうなと。
カツセマサヒコさん
一つのことを深くやるよりも、いくつかの浅いことを知りながら深さを目指していくほうが、より深く潜れる感覚があるんですね。
江﨑文武さん
はい。多分、職人気質で深みに到達する方って、深いところに潜って初めて別の領域と横で繋がっているんだということに気づけると思うんですね。でも僕らの世代は、YouTubeのように年代もジャンルも超えて様々なクリエーションにフラットにリーチできる情報収集手段に慣れ親しんでいて、あらゆることが横で繋がっていることが先に地図として渡されている。ある意味、ラッキーですよね。

ベートーヴェンにもあった⁉
改めて求められる、ビジネス視点。

カツセマサヒコさん
出版業界の話をすると、小説の装丁や帯のコピー、本の売り出し方に作家は関わらなくていい、というスタンスの編集者もいるんですよ。でも僕が本を出した時は、たまたま編集の担当がすごく自由にやらせてくれて、結局デザイナーもカメラマンも、自分で引っ張ってきた方と仕事をすることができましたし、本来出版社が担う本を広める道筋も自分の好きなようにやらせてもらえたんです。一方で、音楽業界でも同じように、アーティスト本人がデザインも発信もできるようになってきたから、レコード会社とアーティストの関係性も変わってきているんじゃないかなと思ったのですが。
江﨑文武さん
変わっていますね。ある意味では、レコード会社は、マスに向けたPRをやるための存在になってきているのも事実だと思います。というのも、もともと音楽業界のビジネスモデルって、レコード会社が、スタジオに入って、奏者を雇ってレコーディングをする初期費用を負担する分、その音楽をどれくらい生産し、流通させるかのコントロールをする原盤権という権利を持つという仕組みでやってきていました。でも最近はスタジオに入らずPCの打ち込みでアルバムが作れてしまうので、初期費用がかからない。僕もピアノを生でレコーディングしたのは、2019年のKing Gnuの「白日」が最後です。
カツセマサヒコさん
え……、もう1年以上も前なんですね。
江﨑文武さん
そうです。ボーカルとドラムだけは、今でもスタジオに入らないと録れないんですけど、ほかは全部打ち込みで。自宅の作曲環境も、鍵盤が1つと、ディスプレイが1個、それにノートPCが接続されているというだけの簡素なものですし。
カツセマサヒコさん
そっか、PC1台あればできてしまいますもんね。
江﨑文武さん
そういう時代なんですよね。だから原盤権は自分たちで持つアーティストが増えていて、そうなると、よりアーティスト自身がどうやって自分を売ってビジネスを展開していくかまで考えないといけないと思います。
カツセマサヒコさん
ただ作るだけではダメで、セルフプロデュースが必要な時代がきていると。
江﨑文武さん
でもそもそも、アーティストがただ作品を作るだけだったのって、僕が思うにここ50年、60年だけの話ではないかなと思っていて。例えばおよそ200~250年前、ショパンやベートーヴェンは、ビジネスサイドの視点を持ってその時々のメディアに応じたビジネスモデルを自分たちで考えていたんです。
カツセマサヒコさん
それは、どういうことですか?
江﨑文武さん
例えば当時はちょうど、印刷技術が発達してきたタイミングです。ベートーヴェンやショパンは、自分の作品が楽譜として量産できるようになったことを受けて、流出や盗作を避けて世界各国での同時リリースを企てるなど、リリースタイミングの設計をきちんと行っていたんですよ。
カツセマサヒコさん
へ~!
江﨑文武さん
あとは演奏会、いわゆるライブで稼ぐという手法が確立し始めたのもこの頃。それ以前の音楽家って、パトロンの庇護の下で活動していて、王族のための舞踏会で演奏する存在でした。そこから外れて本当に自分のやりたい音楽だけをやるにはどうすべきかを、当時の音楽家たちが考えた結果生まれたのが演奏会だとする説もあります。と考えると、特に今の流れって新しい現象でもないなと。
カツセマサヒコさん
それは面白いですね。ただ、今の日本でどれだけビジネス感覚を備えたクリエイターがいるんだろうか……。
江﨑文武さん
僕らはちょうど移り変わりの世代ですが、今20歳くらいの世代になると、ビジネス感覚は当たり前に備わっていますよ。10代の頃からSNSが当たり前にあって、作品をネット上に放流して、いろんな人から反応がくるという思春期を過ごしている。自分をどう売るべきかを普通に考えているんだなというのは、若い世代のクリエイターと関わるたびに感じることです。

テクノロジーの発展は、
表現をもっと自由に、横断的にする。

カツセマサヒコさん
先ほど、最近は生演奏でのレコーディングをしないという話がありましたけれど、それってつまりは、新型コロナが流行する前からリモート環境で制作できる状況になっていたということなんですか?
江﨑文武さん
そうですね。僕らは2017年にNYのThe Love Experimentというバンドとアルバムを作ったんですけど、制作中は一度も会わず、クラウド上のファイルのやりとりだけ。発売してから来日公演があった時に、初めて直接お会いしました(笑)。

WONKと、ニューヨークを拠点に活動する気鋭バンド・The Love Experimentのコラボレーションアルバム『BINARY』。コンセプトに沿って両バンドがそれぞれに楽曲を制作、または共に一から楽曲を制作していくことにより、単なるフィーチャリングに留まらない実験的なプロジェクトとなった。

カツセマサヒコさん
それはすごい……、WONKで楽曲を作る時も、おのおのPCに向き合って、ベースとなるデモにそれぞれが音を足していく感じなんですか?
江﨑文武さん
はい、コミュニケーションの軸はSlackで、適宜チャットルームで報告がされます。
カツセマサヒコさん
WONKの音楽を聴いていると、その原型はジャズにあるのかなと勝手に思っていたんですけど、ジャズって、ジャムセッションから始まるものだというイメージがありました。でも今のお話だと、計算して緻密に音を乗せていく真逆の方法ですよね。
江﨑文武さん
2016年頃まではセッション形式で作っていたんですが、それではあまり成長がないことに気付き始めて。ジャムってすごくライブ的で、その場、その瞬間でしか起きない化学反応が面白みだと思うんですけど、その瞬間的な盛り上がりをアーカイブしていくことと長年愛される作品を作ることは、僕たちにとってはイコールではないなと。だから2017年頃からは、腰を据えて緻密に作っていく方向に転換しました。
カツセマサヒコさん
曲を作ることとライブをすることの探究心には、どんな違いがあるんですか?
江﨑文武さん
完全に別物でもないんですよね。ライブは、録音芸術として作ったものを一番カッコよく見せるためには何が必要なのか、掛け算の考え方をしていくので。
カツセマサヒコさん
相互に結びついているんですね。
江﨑文武さん
はい。例えば、今年の末に回る予定のツアーでは、照明まで自分たちでやろうという話をしていて。曲をPCソフトで作っていると、同じシステム上で照明の色をコントロールすることもできるんですよ。作った曲のデータと照明機材へ送る信号を同じシステムにしてしまえば、曲とバッチリ合ったライティングも自分たちで設計できるじゃないか、と。
カツセマサヒコさん
音に合わせて照明のスイッチングもできるんだ。……照明さん、いらなくなっちゃいますね(苦笑)。それもテクノロジーが発展していったから見えてきた未来ですよね。
江﨑文武さん
そうですね。個人でできることがどんどん拡張され続けているなと思っています。
カツセマサヒコさん
身近なテクノロジーの発展といえば、江﨑さんはPCをどんな基準で選びますか?
江﨑文武さん
動画や音源の書き出しのような、重い作業でもサクサク動作することが何より大事ですね。音楽であれデザインであれ、考え始めるタイミングからいきなりPCに向かい合うことが多いので、直感的に操作ができるような動作スピードはマストだなと思います。

専用のセンサーにより人が近づいたことを感知し、カメラで素早く顔認証を行う「瞬感起動」搭載で、パソコンの前にきたらすぐに作業ができる。「速い!」と両氏も驚嘆のスピード。

カツセマサヒコさん
FMVの新しいFHシリーズ、FH-Gは、動作スピードには自信があるそうですよ。
江﨑文武さん
しかも、4K液晶ディスプレイなんですね! 映像や写真を確認したり編集したりする作業も多いので、これはかなり嬉しいです。
カツセマサヒコさん
そのほかに欠かせない条件はありますか?
江﨑文武さん
ああ、意外とデザインがかなり重要。毎日触るし、一日の中で一番見つめ合う存在ですし(笑)、家に置いていても目立つ。だからこそ、インテリアとしてどうかという視点は欠かせないです。このFHは、脚の仕上げや、表面にブランド名とかが書いていない削ぎ落とされた雰囲気も、すごくいいな。こんな風に、置いてあってただそれだけでかっこいいって、すごく大事なことなんです。

「削るタイプの美学にグッとくる」と話す江﨑氏の心を掴んだ脚のデザイン。

様々な境界を取り払うことで、
可能性はグッと広がる。

カツセマサヒコさん
働き方という視点で考えると、江﨑さんのようなクリエイターの背中を見て、いろんなことがマルチにできる人になりたいと考える若い人たちも出てくると思います。江﨑さんはまず音楽と出会って、高みに上る過程で、必要になったものを習得していったというストーリーがありましたが、若い時期に一つのことを突き詰めることと、並行していろんな好奇心を持つこと。どんなバランスで向き合うのがいいと思いますか?
江﨑文武さん
うーん……そうだなあ。「若い頃はなんでもやったほうがいいよ」ってよく親戚のおじさんなんかから言われますけど(笑)、本当にその通りだなと思っていて。僕が自分の10代を振り返って後悔していることは、物事と物事の境界や相関性にあんまり目が向いていなかったこと。これって多分、教科教育の問題だと思うんです。どうしても、カリキュラムがある手前、物理と数学は教科として分けないといけないし、国語は国語、音楽は音楽と分けて考えられる。あらゆる事象が縦割りされているように見えるのは、短いスパンでの目標設定上の都合でというだけ。本来、どんなものも深めていけば全部繋がっているんですよね。
カツセマサヒコさん
そうか、総合的にいろんなことが繋がっているんだという前提で、いろんなことに興味を持つことが大事だと。
江﨑文武さん
そうなんです。そしてそれは教える側にも、「私は物理の先生だから、ほかのことは教えられません」ではなくて、ひとりの人間として教育に携わるスタンスがないと難しい。個々の分野の関係性をちゃんと見出して、それを伝えることが大人には必要だし、子供はそれを意識して取り組むことが必要な気がしますね。
「必要になったから、その都度習得してきた」という言葉の通り、マルチなスキルを持つことは、ある意味これからの時代を生きる上での必然でもあるのかもしれない。ふと5年前を振り返ってみると、自らの活動をどうマネタイズし、プロデュースするかをワンストップで考えているクリエイターは表立ってはいなかったように感じる。しかし今最前線に立って価値を生み出している人は、江﨑さん然り、5年前から俯瞰的な目線を持って意識的に取り組んでいた人なのだろう。そう考えると、本質が見直され、スクラップアンドビルドがなされる今を契機に、生まれゆくクリエーションはますます研ぎ澄まされたものになるはず。少しだけ明るい未来を見せてもらったような気がした。

江﨑氏が、その高精細なディスプレイに太鼓判を押したのが、23.8型ワイドのデスクトップPC、富士通パソコンFMV「ESPRIMO FH-G/E3」。3辺狭額液晶で画面だけがそこにあるかのような軽快なデザインと、4K液晶と高性能グラフィックでクリエイティブ作業もお手の物。奥行きのコンパクトさやキーボードを本体下に収納できる手軽さは、デスクトップながらも置き場所の自由度を高め、柔軟に使える一台。

富士通パソコンFMV「ESPRIMO FH-G/E3」
OS:Windows 10 Home 64ビット版
ディスプレイ:23.8型ワイド
CPU:AMD Ryzen™ 7 4700U
GPU:AMD Radeon™ RX 5300M
メモリ:16GB
ストレージ:約1TB SSD(PCIe)
Office:Office Home & Business 2019(個人向け)
サイズ:W544×D196×H400mm(本体最小傾斜時)

FMV 「ESPRIMO FH-G/E3」の詳細はこちら

FMVの想いとこだわりの詳細はこちら

interview/Masahiko Katsuse photo/Koichi Tanoue text /Emi Fukushima

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